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減衰ヒステリシスとフォースを模索する。

 

 

減衰力と速度域

 

減衰力を単純に考える場合、ラジコンカーのダンパーように、ピストンに穴を開けたオリフィスピストンを流動抵抗体とし、そこを流れる流体から発生するモノと捉えて支障は有りません。この場合、作動速度・作動量が上昇すれば、必然的に減衰力も上昇します。

しかし、この場合、伸縮双方に発生する減衰力はロッド反力を差し引くと同等と成ってしまいます。

また、ラジコンカーのダンパーにもガス室と成るブラダーが有るため、ロッド反力を含むリサージュとして指標すると縮側(バンプ)が高い値と成ります。

つまり、実車で使用する場合においても、使用速度域的 (微低速域など) に問題が無ない場合や、伸縮双方が同等の減衰力で問題が無い場合は (低速域) 、オリフィスで造る減衰力で支障は有りません。

しかし、主とする速度域が広範囲に存在する場合や、同速度で伸縮双方の減衰力に差を付ける事が必要な場合、オリィフィス減衰では対応が出来ないため、一般的には、2wayピストン構造を使用し、速度域の適合性や、同速度域での伸縮双方の減衰力差を制作する事に成ります。

 

減衰力の2way化と適応速度域

 

2wayピストンは、ピストンに、伸び・縮・各々の通路(ホール)を設け、各々を1way構造とする事により、2wayピストンとしています。また一般的に、バンプホール (縮) が大き目に成っていて、伸縮双方の減衰力差を予め制作し易い構造と成っています。

また、2wayピストンにも、直線的なホール構造と成る、「リニアタイプ」(Linear)と、外から内へと交差するクロスホール構造の「ディグレッシブタイプ」(Dggressive) に分類されます。 これらは作動速度域の適応性に違いが有り、一般的には、リニアタイプが高速域主体型、ディグレッシブタイプが低速域主体型と区別されています。 また、それらを組み合わせた「ディグレッシブリニアタイプ」も有ります。 また、ディグレッシブ構造の物を改良し、高速域まで適合性を持たせた、「ベロシティーディペンデントタイプ」(Velocity Dependent)も存在します。

このように、主体として使用する速度域に対して、適合するピストンは色々と存在しています。が、現在、ノーマル車両のアフターパーツとして多く用いられるのは、「リニアタイプ」です。

また、リニアタイプには、それらの構造とは別の手法で、幅広い速度域に適合させるため、

ハイフロータイプ (High Flow) が各々のメーカに存在します。ハイフローとは、予め高速域の適応性を低めにし、他の条件により低速域を補い、高速域までの適合性を持たせる方法と成ります。

ハイフロータイプの見分け方として、基本ピストンが存在する場合、そのピストンに比べ、ホールの大きさ・長さ・個数により、ピストン単体での流動抵抗を小さくしたタイプの物をハイフロータイプとして認識します。 また、手法としてホール径の拡大・ホールが通路として機能する部分の短縮、又は流入抵抗の減少を狙う構造体・シムと接する面「フェース」(Face)の通路形状を細い土手のような形状 (プール) とする物・フェースの仕上や処理を粗くしてフローさせる物。などが代表例で有ります。

つまり、ハイフローを使用する場合、高速域での減衰が高く成り過ぎる事を防ぐ効果が有る事と成り、逆の言い方をすると、リニアにおいて、低速域から高い減衰を造りたいため、とも成ります。

しかし、実際の作用としては、使用するオイル粘度と、その性能により変化します。

 

 

積層シム構成 (バルブスタック)

 

伸縮双方で個別の減衰力を造るために ピストンの1wayフェースに、5枚から10枚程度のシムを積層(Valve Stacks)します。スタック枚数はメーカーやピストン形状により様々です。

シムの素材は、概ね「鋼」(ハイテンションスチール・リボン鋼)と言われる物で、一般的に使用する厚みは0.1mmから0.5mm程度、概ね0.05mm単位で設定されています。外径は使用するピストン径により異なりますが、直径20mmから直径44mm程度、概ね1mm単位で設定されています。また各々の手法で表面処理も為されています。

ピストンフェース側より、一番シムと呼ばれ、順次外径が下がると番号は上がります。

ピストンフェース側が、低速域シムと成り、順次、高速域シムと成ります。

 

また、メーカーの手法にもよりますが、ここでも、シムに対してのプリロードは存在します。

プリロードの手法として、リニアの場合、ピストンフェースに直接作用角度を付ける、ダイレクトテンションタイプと言われる物と、スタック(積層)の中で、トップシムを二枚重にし、その間に厚みの異なるプリセットリングとその内径に収まる薄目のシムを組み合わせる事により作用角度を付けるプリセットタイプが有ります。

ダイレクトテンションタイプの場合、ピストンフェースへ直接、角度付の加工が必要と成り、プリセットシムを使用する場合は、フラットフェース(平面)へのスタックが主流です。

これと同じように、ディグレッシブタイプ・ベロシティーディペンデントタイプにもテンション(プリロード)

の調整機能が存在しています。 これらは、予めフェースが0.5mm程の段付きと成っていて、その段差を少なくする、リセットシムの厚みによりプリセット量を調整します。

これらの、プリロードから得られる効果は、特に高速領域の追従性に影響します。

当然、減衰力をm/secグラフで表示した場合においても、高速領域の数値は大き目に示されます。

国内で、ダイレクトテンションを使用する例は少なく、概ね、プリセットタイプが主流のようです。

また、プリセットを使用する場合も、リバウンド (伸び) が主流として使用されています。

私はリニアにダイレクトテンションを多用し、双方に違う角度付を加工して使用しています。

また、概ね「鋼」と言いましたが、シム素材として、ステンレス素材やバネ乗数を有するカーボン素材を使用する事も有るようです。

これとは別に、積層シムを使わずに、各々の通路をチェックボールで1way加し、チェックボールにコイルスプリングでテンションを掛ける手法も有るようです。

これは、一部のフォミュラーダンパーで用いられている、高速側のオリフィス調整機能を模して造られているようですが、面白い発想だと思います。が、恐らく至難の技でしょうネ。

是非、頑張って頂きたいモノです。

これが、概ね、2wayピストン構造で造れる、減衰力と成ります。.

 

 

オリフィス減衰

 

オリフィスとは、流体の通路と言う意味合いが有ります。

ダンパーで言うオリフィス減衰は、微低速域において、シム減衰に移行するまでの「逃がし」的な要素として捉えられています。

一般的には、0.5mmから1.5mm程度の小さな穴をピストンに開け、双方の減衰力に対して同等の逃がしを発生させる物としています。実際は、ロッド反力が有るため、その影響を受け、伸び (リバウンド) 側の減衰力が小さく成ります。

ピストンに直接穴を開ける場合、その開ける場所により、異なる乗り味と成るため、ビルダーの感性が現れるポイントでも有ります。基本的に上下方向にダイレクトに開けられる事が多いようです。

また、調整機能としてダイヤル式番号調整タイプの場合、オリフィス調整のモノが有ります。

これも、ニードル調整などとは違う乗り味と成ります。

また、ニードル調整のように、回転調整で有っても、複数のオリフィスを開閉機構と組み合わせて、オリフィス調整機構としてある物も存在します。

また違う手法として、フェースに細いスリット加工をして逃がす物や、シムに切り込みを入れて逃がす「ブリードシム」なども有ります。しかしコレらの手法は、シムに対しての与圧力が低く成るため、一般的にはディグレッシブタイプに多く用いられています。

つまり、オリフィス減衰とは、主減衰と成る「シムで発生する減衰」へ移行するまでの減衰力で、主減衰が発生する速度域を調整している物として捉えます。 つまり、オリフィスで逃げる減衰力が有る間は主減衰が発生しない、若しくは発生し難い状態に成っています。

 

 

リーク特性 (リーク減衰)

 

リーク特性とは、主減衰の発生を司る「ピストン」や、その速度域を調整する「オリフィス」以外の「逃げ」で発生する減衰力を言います。

これも、主減衰が発生するまでの「逃げ」の減衰力と成りますが、その逃がす方法や機構により、影響する速度域が異なります。一般的に減衰力調整機構として良く使用されるニードル調整ですが、これもリーク減衰で調整していると考えて問題有りません。ただニードル調整の場合、その形状により、影響する速度域を調整して有ります。ニードル径、またニードルの角度、またその大きさにより影響する速度域を調整します。

これとは別に、シリンダーとピストンの摺動部においてもリーク減衰が発生します。

この部位は、私的に、ダンパー減衰を考える場合、最も重要な部分としています。

一般的には、気密性を確保するために、ウェザーリングを使用します。ウェザーリングには、はめ込みタイプと、嚙み合いタイプが良く使用されています。

私的に、はめ込みタイプは、嚙み合いタイプと比べ、嚙み合わせ部分からのリークは発生し難い反面、スカッフィングには弱い性質が有るように思われます。クリアランスにもよると思いますが、部分的な捩じれに弱いためと思われます。ですから、はめ込みタイプは、ロッド外力の少ない物 (倒立など) に使用し、ロッド外力の多い場合は嚙み合いタイプをチョイスしています。

またウェザーリングとニトリルOリーングを組み合わせて使用する場合も有ります。

またその素材的に、フリクションの少ないカーボン添加の物をチョイスする場合など、様々です。

つまり、この部位は、「気密性を確保しながら、フリクションを減らす」と言う、最も困難な技を必要とし、これを怠ると、減衰特性の中で、私的に最も大切にしている「作動レスポンス」を造る事が不可能と成ってしまうからなんです。

私が多用するチョイスは、嚙み合いタイプのウェザーリングとその厚み調整、また、ニトリルOリングの張力を、組み合わせてコントロールしています。

 

 

シリンダー径・シャフト径

 

モノチューブを含む全てのショックアブソーバーには、ピストンを摺動させるためのシリンダーが必要です。

当然、その真円精度は1/100mm単位で管理されているモノです。 概ね、既存の規格パイプからの製造が多いため、サイズ的にはそれほどの種類は無く、ツインチューブブタイプの場合、20mm前後のモノが主流で、モノチューブの場合は40mm前後のモノが主流と成ります。

シャフトも同じで、既存の規格シャフトの使用が主流で、ツインチューブ・モノチューブとも12mmから22mm

前後の間で選択される事が主です。

モノチューブを使用する多くの競技車両は、ノーマル車に比べ高いスプリング定数や硬いスタビを使う事により、アンチロール・アンチダイブを狙います。その場合、実質ストーロクはノーマル車より極端に少なく成ります。ストロークが減少すると、減衰力を発生させるための流動抵抗体の移動量が減少します。

例えば、同径でストロークが100mmと50mmの場合では、その量は半減します。

その半減した流動抵抗体の移動量で、減衰特性を演出する事は至難の技です。 このためシリンダー径を大きくして流体移動量を確保し、減衰特性の演出に適したモノとしています。

また、シリンダー径・シャフト径の比率から発生する、プログレッシブロッド反力係数の設定が容易に成る事をも助けています。

 

 

ロッド反力と減衰ヒステリシス

 

ロッド反力と減衰ヒステリシスを考える場合、ストロークにより発生するガス室容積変化比率として捉えるプログレッシブな場合と、ロッド挿入体積・ロッド断面積・フリーピストン断面積から発生するプリロッド反力との融合値を考慮する必要が有ります。

つまり、シリンダー径・ロッド径・ガス室容積・ストローク量・設定ガス圧・減衰特性のバランスにより、ロッド反力に発生する「減衰ヒステリシスとフォースの融合物」をコントロールする事と成ります。

ただ、既存のシリンダーやシャフトを使用する場合、そう多くの組み合わせが可能な訳では有りませんから、概ね、シリンダー径とシャフト径の比率が小さい場合と大きい場合の、減衰ヒステリシスを二分して考える程度とし、後は、それらに対して、得られるプログレッシブロッド反力を、使用するストローク量を考慮した上で、ガス室容積の設定とガス圧設定から、減衰ヒステリシスとフォースの方向性を導きます。

簡単な言い方をすると、同径のシリンダーで有っても、シャフト径を変更した場合には、ロッド反力に発生する減衰ヒステリシスが変化するため、発生するフォースにも違いが現れる、と言う事です。

私的な方法ですが、これを車両に合わせて現地(サーキット)でセッティングする場合に、予め設定ガス室容積を大き目にし、バンプフォース主観とします。これを現地でリフトフォース寄りに変更したい場合には、ガス室にダンパーオイルを注入し、ガス室容積を減らし、ガス圧を高めた上で低速減衰をクリックアウトし減衰ヒステリシスをコントロールしたりしていました。

荒業ですが・・・・(笑)

このように、減衰ヒステリシスは、意図するバンプフォース・リフトフォースの存在が明確な場合、コントロールする事は容易ですが、ヒステリシスの設定を誤った場合や、意図するフォースの存在が明確でないシリンダー・ロッド比率を使用した場合などでは、理想としている減衰としては機能しない事が有るため注意が必要です。

つまり、端的な言い方をすると、減衰ヒステリシスは、測定器で計測される減衰力数値の中に存在する物ではなく、働くフォースの中に、その大きさに到達する「速さ」として存在している物なんです。

つまり、減衰力が切り替わるポイント、「減衰力レスポンス(作動レスポンス)」の中に働き易さの方向性(抵抗として働きやすい方向性)として存在しています。

ですから、必要とされる減衰ヒステリシスは、使用するステージにより必要とされるフォースが異なるため、そのステージ合わせて予め設定する事が必要と成りますし、使用する他のサスペンションパーツのヒステリシスとの融合も必要と成ります。

これをサスペイション全体で考えた場合、スプリング・スタビ・ブッシュ硬度・などの各々のヒステリシスとの融合も存在しますし、車両全体で考えた場合は、車両剛性・タイヤ剛性や硬度などの、各々のヒステリシスとの融合も設定対象と成ります。

つまり減衰力数値を造る以前に、これまで説明してきた機構的な内容を考慮したうえで、減衰ヒステリシスを理解し、必要とされるフォースを造り出す事が、減衰力の模索と成ります。

また、ここでは、あえてダンパーオイルの事には触れずにおきます。

これまでお伝えした内容に対して、一番大きな影響力を持つ物なのですが、私的にオイルの中には答えは無いと考えているからです。流動抵抗体はオイル以外の物でも存在します。液体で有れば・・・・(笑)

 

 

 

追伸、

減衰ヒステリシスは他のサスペンションパーツのヒステリシスと同方向に偏らせるのではなく、他のヒステリシスとの調和・融合を考慮し、お互いが働く速度域に相乗効果が発生するように設定します。

「動き易い物には動き難い物を、しかしその動く速度は調和されている事」が条件です。

 

 

 

若きサスペンションエンジニアへ捧げます。

 

TRACE事業部 渡海 正雄

 

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